「身体がゆるめば、心もゆるむ」科学が証明した関係性
- COCORODO SPA
- 8月23日
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1. はじめに:心と身体の関係は「感覚」ではなく「データ」で語れる時代へ
現代において、「身体と心はつながっている」という言葉はよく聞かれます。しかし、それを裏付ける科学的データがあることは、あまり知られていません。
本記事では、2019年に開催されたFloat Conferenceにて、神経科学者Justin Feinstein博士が発表した研究データをもとに、フロートタンクによる身体的変化(血圧)と心理的変化(不安や安心感)との相関関係を解説します。
2. 実験の前提:フロートセッション前後の変化を測定
Feinstein博士の研究では、60分間のフロートタンクセッション前後において、以下の2つの指標を測定しています:
指標 | 内容 |
拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure) | 自律神経(特に副交感神経)の働きを示す身体的指標 |
状態不安・静けさ(State Anxiety / Serenity) | 信頼性のある心理尺度により測定された主観的感情状態 |
被験者は、健康成人および不安傾向のある臨床群を含み、比較対象としてゼログラビティチェア条件*も設けられました。
3. 結果①:フロート後、拡張期血圧が10〜15ポイント低下
フロートタンクに入った直後から10〜15分以内に、拡張期血圧が平均で10〜15mmHg低下。この変化は、比較対象であるゼログラビティチェア群では見られず、フロート環境特有の反応であるとされています。
このことから、フロートは交感神経の緊張を緩和し、副交感神経が優位になることを示す生理的データと解釈できます。
4. 結果②:血圧変化と感情変化に相関関係がある
博士は、2つの散布図(scatter plot)を提示し、血圧変化と感情変化の量的相関関係を示しました。
グラフ | 横軸 | 縦軸 | 傾向 |
左図 | 拡張期血圧の変化 | 状態不安の変化 | 明確な負の相関(r<0) |
右図 | 拡張期血圧の変化 | 静けさスコアの変化 | 明確な正の相関(r>0) |
つまり:
血圧が大きく下がった人ほど、不安が大きく減少
血圧が大きく下がった人ほど、静けさが増した
このデータは、単なる主観的報告ではなく、心理状態と生理指標の間に明確な関連性があることを証明しています。
5. 解釈:身体を整えることで心が整う「ボトムアップ」のアプローチ
この研究のポイントは、変化の起点が“心”ではなく“身体”だったという点にあります。
多くのリラクゼーション技法や心理療法は、「思考」や「認知」から心を整えようとします(トップダウン的アプローチ)。それに対し、フロートタンクは**「身体」から先に整える(ボトムアップ)アプローチ**であり、結果的に感情や精神状態にまで影響を与えるという、自律神経系に働きかける非侵襲的技術として注目されています。
6. 応用の可能性と制約
この知見は、以下のような人々に対して可能性を示唆します:
不安や緊張感に悩む人
薬に頼らず自然な方法で心身を整えたい人
呼吸法や瞑想が苦手な人
自分でコントロールする力が弱まっている時期の人
ただし、これはあくまで神経科学的研究の結果であり、フロートが医療行為や治療を目的としたものではないことを強調しておく必要があります。
7. 結論:身体の変化が、心の静けさを生む
この研究が明らかにしたのは、「身体がゆるむと、心も自然とゆるんでいく」という、感覚的だった直感が科学的にも正しかったという事実です。
フロートタンクは、あなたの内側にある調整力をそっと呼び覚まし、何かを“する”のではなく、“整える”という静かな革命を起こしてくれる装置なのかもしれません。
※本記事は、2019年Float ConferenceにおけるJustin Feinstein博士の研究発表内容に基づいており、医療行為・治療効果を示すものではありません。
《注釈》
ゼログラビティチェア条件とは?
▶ 概要
ゼログラビティチェアとは、NASAの宇宙飛行士が打ち上げ時に取る姿勢を模した設計で、人間の背骨や関節、筋肉への圧力を最小限に抑える構造になっています。
研究での「ゼログラビティチェア条件」は、次のように使われます:
比較対象(コントロール条件)として設定
被験者はチェアに座ったまま、照明を落とし、静かな環境で過ごす
時間や温度などは、フロート条件と可能な限り一致させる
つまり、「浮かばずに、似たような静かな環境で同じ時間を過ごす」という対照群です。
▶ なぜこの条件が必要?
フロートの研究では、「単に静かで暗い場所で横になっていれば同じ効果があるのでは?」という疑問が生じます。
そこで、浮遊がない条件(=チェア)との違いを比較することで、
効果がフロートタンクそのものの環境によるのか?
それとも静かな時間・姿勢・遮音・遮光などによるのか?
を明確にすることができます。
▶ 研究上の違い
比較項目 | フロートタンク条件 | ゼログラビティチェア条件 |
浮遊感 | あり(無重力) | なし(座位) |
感覚遮断レベル | 高い(視覚・聴覚・触覚すべて) | 低い(視覚・音は制限されるが触覚あり) |
筋緊張 | 極小(完全浮遊) | 一部残る(接地・姿勢制御) |
内受容感覚 | 活性化しやすい | 限定的 |
研究によれば、血圧の低下、報酬系の活性化、不安の軽減などの変化は、チェア条件では見られなかったことが多く、フロート特有の効果が実証された背景として、この比較条件は重要な役割を果たしています。
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