アイソレーションタンクと不安|Flotation-RESTの研究からわかっていること
アイソレーションタンクは、光や音などの外部からの刺激をできるだけ減らし、高濃度のエプソムソルト水溶液に身体を浮かべて過ごす環境です。こうした環境を利用して外部からの刺激を制限する方法は、研究分野では「Flotation-REST(Restricted Environmental Stimulation Technique)」と呼ばれ、不安やストレス、睡眠などとの関係について研究が行われています。
今回はその中から、全般性不安障害(GAD)の基準を満たした人を対象に、Flotation-RESTが心身にどのような変化をもたらすのかを調べた研究をご紹介します。
なお、アイソレーションタンクは医療機器ではなく、COCORODOでは疾病の診断・治療を目的としたサービスを提供していません。本記事で紹介する研究結果についても、疾病の治療や改善を保証するものではありません。
どのような研究?
今回紹介するのは、スウェーデンのカールスタード大学心理学部のKristoffer Jonsson(クリストファー・ヨンソン)とAnette Kjellgren(アネット・シェルグレン)によって行われ、2016年に学術誌『BMC Complementary and Alternative Medicine』に掲載された研究です。
この研究では、全般性不安障害(GAD)の基準を満たした18〜65歳の男女を対象に、Flotation-RESTによって心身にどのような変化がみられるのかが調べられました。研究に参加した50名は、Flotation-RESTを受けるグループ25名と、受けずに待機するグループ25名にランダムに分けられました。
Flotation-RESTを受けるグループは、約7週間にわたって1回45分、合計12回のセッションを実施。研究開始前、開始から4週間後、終了後にそれぞれ状態を測定し、主に次の項目について変化を比較しました。
・全般性不安障害(GAD)の症状
・過度な心配(病的な心配)
・睡眠の問題
・感情調整の困難
・抑うつ症状
・マインドフルネス
さらに、Flotation-RESTを受けたグループについては、治療終了から6か月後にも追跡調査が行われています。
出典: BMC Complementary and Alternative Medicine「全般性不安障害(GAD)に対するFlotation-RESTのランダム化比較パイロット試験」(2016)
GADの症状にみられた変化
研究の主要な評価項目となったのが、全般性不安障害(GAD)の症状です。
約7週間の実施後、Flotation-RESTを受けたグループでは、研究開始前と比較してGADの症状が統計的に有意に減少しました。一方、Flotation-RESTを受けていない待機グループでは、有意な変化は確認されませんでした。
さらに研究終了時には、Flotation-RESTを受けたグループの37%(9名)が、研究で用いられた評価尺度におけるGADの基準値を下回りました。ただし、この結果だけでFlotation-RESTによるGADへの治療効果が確立されたとはいえません。
今回の研究は50名を対象としたパイロット試験であり、研究者も「GADに対する既存の治療を補完する方法としての可能性」を示す結果として位置づけ、さらなる研究が必要としています。

睡眠・感情調整・抑うつにも変化 この研究では、GADの症状だけでなく、睡眠や感情調整、抑うつなどについても調べられています。Flotation-RESTを受けたグループでは、研究開始前と比較して、「睡眠の問題」「感情調整の困難」「抑うつ症状」でも統計的に有意な改善が確認されました。
睡眠については、研究終了時にFlotation-RESTを受けたグループの43%が、評価尺度上で「良好な睡眠状態(good sleeper)」とされる基準に到達しました。
また、感情調整についても、感情への気づきや、自分の感情を理解・調整することの難しさを測る評価尺度で改善がみられています。
抑うつ症状については、研究終了時に42%が評価尺度上の寛解基準に到達しました。
このように、今回の研究ではGADの症状だけではなく、睡眠や感情調整、抑うつといった複数の項目に変化が報告されています。
Flotation-REST実施前後の各評価項目の平均スコア
Flotation-REST群 | 待機群 | |||||
開始前 | 4週間後 | 終了後 | 開始前 | 4週間後 | 終了後 | |
抑うつ症状(MADRS-S) | 24.04 | 13.38 | 10.25 | 20.77 | 21.09 | 19.09 |
過度な心配(PSWQ) | 61.88 | 56.21 | 52.67 | 57.95 | 56.91 | 54.68 |
GAD症状(GAD-Q-IV) | 10.01 | 7.75 | 7.07 | 9.92 | 9.07 | 9.22 |
睡眠の問題(PSQI) | 10.58 | 6.88 | 5.71 | 9.73 | 9.18 | 8.68 |
感情調整の困難(DERS) | 99.67 | 85.63 | 83.04 | 97.64 | 98.86 | 97.64 |
マインドフルネス(MAAS) | 2.98 | 3.37 | 3.64 | 3.64 | 3.45 | 3.35 |
フロート中の主観的な変化(EDN) | 31.59 | 45.48 | 44.05 | - | - | - |
※数値は各評価尺度の平均スコアです。尺度によって数値の高低が示す意味は異なります。
出典:Jonsson & Kjellgren(2016)をもとに作成
「過度な心配」そのものへの効果は? 一方で、すべての項目でFlotation-RESTの明確な効果が確認されたわけではありません。
GADの特徴のひとつである「過度な心配(病的な心配)」を測る評価では、Flotation-RESTを受けたグループでも数値は低下しましたが、待機グループでも同様に低下しており、研究終了時にはグループ間で統計的に有意な差は確認されませんでした。
つまり今回の研究では、GADの症状全体には改善がみられた一方で、「過度な心配」そのものに対するFlotation-RESTの明確な効果は確認できなかったことになります。
なぜGADの症状全体は改善した?
「過度な心配」そのものには明確な効果が確認されなかった一方で、GADの症状全体には改善がみられました。
研究者はこの理由のひとつとして、Flotation-RESTが落ち着きのなさ、疲労、筋肉の緊張といった身体的な症状に作用した可能性を挙げています。過去のFlotation-REST研究でも、比較的一貫して報告されているのが、深いリラクゼーションや筋肉の緊張・痛みの軽減です。
つまり今回の結果は、「心配しないようにする」といった思考そのものへのアプローチというよりも、身体の緊張や疲労などが和らぐことで、結果としてGADの症状全体が軽減した可能性が考えられます。
ただし、これは今回の結果に対する研究者の考察であり、そのメカニズムが実証されたわけではありません。
6か月後も変化は維持された?
この研究では、Flotation-REST終了から6か月後にも追跡調査が行われています。
その結果、治療終了時にみられたGADの症状、睡眠の問題、感情調整の困難などについては、6か月後も統計的に有意な悪化は確認されませんでした。つまり、これらの項目については、治療終了時にみられた変化がおおむね維持されていたことが示唆されました。一方で、抑うつ症状については、治療終了時と比較して6か月後にスコアが統計的に有意に上昇しており、治療終了時にみられた変化は維持されませんでした。
なお、6か月後の追跡調査に回答したのは治療グループ24名のうち19名です。そのため、長期的な影響については、より多くの参加者を対象とした研究が必要です。
アイソレーションタンクと不安|Flotation-RESTの研究からわかっていること|まとめ
今回紹介した研究では、Flotation-RESTを受けたグループで、GADの症状、睡眠の問題、感情調整の困難、抑うつ症状などに改善が確認されました。
ここで理解しておきたいのが、「不安(anxiety)」と「心配(worry)」の違いです。「不安(anxiety)」は、緊張や落ち着かなさといった心理的な状態だけでなく、身体的な反応も伴う、より広い概念です。一方、「心配(worry)」は、「もしこうなったらどうしよう」と将来起こるかもしれないことについて繰り返し考えるなど、主に思考に関わるものです。
今回の研究では、こうした心身の症状を含むGADの症状全体には改善がみられました。しかし、GADの特徴のひとつである「過度な心配(病的な心配/pathological worry)」については、Flotation-RESTを受けていないグループとの明確な差は確認されませんでした。
研究者はこの結果から、Flotation-RESTが「心配」という思考そのものに直接作用したというよりも、落ち着きのなさや疲労、筋肉の緊張など、身体的な側面が和らぐことで、GADの症状全体が軽減した可能性を考察しています。
ただし、今回の研究は50名を対象としたパイロット試験であり、参加者も医師による診断ではなく、自己報告による評価尺度をもとにGADの基準を満たした人が対象です。そのため、現時点で「Flotation-RESTがGADを治療する」と結論づけることはできません。
今回の研究は、アイソレーションタンクと不安の関係について一定の変化を示すとともに、Flotation-RESTによるリラクゼーションが不安にどのように関係するのか、その可能性を示した研究のひとつといえるでしょう。
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